第十章 乱心

第十章 ~乱心~ 最初で最後の呼び名

「私はお兄ちゃんのあの下手くそなキスが大好きだったよ」「下手で悪かったね」お兄ちゃんはそう言って笑った。「それから、あの約束、守るから。ずっと」「煙草の特権の話?」「うん、そう」「じゃ、俺はおまえが白と黒の服が好きだったってことだけ覚えて…

第十章 ~乱心~ なくしていたジグソーパズルのピース

「俺たち、第一印象は最悪だったんだよね。特におまえの俺に対する評価」「うん、最悪だった」由香は笑いながら答えた。「そのまま最悪でいたら、こんな思いをせずにすんだのかな」「お兄ちゃんを好きにならなければ、痛みとか苦しみとか悲しみとか、そうい…

第十章 ~乱心~ ニタモノドウシ

今なら言える。『好きな人が出来たなんて嘘。お兄ちゃんがいつまでも放っておくから、ちょっと脅かしたくなっただけ』そう少し笑いながら話せば、今、目の前で終ったはずの恋もまた舞い戻ってくる。しかし、どうしても言えなかった。私はもう選んだのだ。こ…

第十章 ~乱心~ 初恋の人

「お兄ちゃん、ちゃんと会って話そうよ。こんな話、電話でするのは嫌だよ」「いや…やめておこう」由香の誘いをお兄ちゃんは断り、そして言葉を続けた。「もう会ってもどうにもならないことだから。いや、なっちゃいけないでしょ。またおまえを苦しめることに…

第十章 ~乱心~ 感情の誤算

「ごめん」先に謝ったのはお兄ちゃんだった。「ううん、私こそ、ごめん」由香も続けて謝った。「いや、俺がちゃんと話すべきだった。あの日、本当は全て話そうと思って呼び出したんだ。おまえと会わないあいだにいろんなことがズレてきていることに気づいた…

第十章 ~乱心~ 沈黙だらけの二人

「この前、彼女と約束した1年が過ぎた。それで『やっぱり気持ちは変わらないから別れて欲しい』って話した。彼女は『本当に1年も待ってたの?馬鹿だね。私はもうあなたのことなんてとっくにあきらめた。好きな子のところに行けばいいじゃない?』って。もし…

第十章 ~乱心~ 長い長い電話の始まり

涙雲はもういらないと思っていたのに、世界中を覆うような涙雲がやってくることになった。バイトが終わり家にたどり着いたところで電話がなった。時計は夜9時過ぎを表示していた。「もしもし?」「あ…あの、俺。新井ですけど…」「お兄ちゃん?」「ごめんな、…