第三章 恋心

第三章 ~恋心~ 幸せと切なさ

辺りを見ると、夕日はとっくに沈んでいて、空は茜色から濃紺に変わっていた。 「もう…帰らなくちゃ」 お兄ちゃんに言われ、由香もうなずいたものの、二人のあいだには帰りたくない空気が蔓延していた。 お兄ちゃんの左手がシフトレバーに伸びた時、由香は急…

第三章 ~恋心~ 弱み

「じゃあ、そろそろ帰ろうか」 彼の言葉で二人の乗った車は山道を下った。 10分ほど走ったところで、お兄ちゃんが急に車を止めた。 「どうしたの?」 由香が驚いて聞くと、お兄ちゃんは何かを手の平に載せて見せた。 「これ」 「アリ?」 「うん。多分、海か…

第三章 ~恋心~ いつもと違う自分

笑いが途切れないうちに由香は聞いた。 「そうだ、どうして海で本なんて読むの?」 「海で本を読んだら、波の音がBGMになっていい感じなんだよ。前にバイクが好きって話したでしょ?高校の頃はバイクで海まで走って、そこで本を読んでたけど、最近はバイ…

第三章 ~恋心~ 風を切って走る

朝早く出て来たものの、海に到着したのは昼前だった。 後部座席においてある弁当入りの鞄を持って車から降りた由香は、段ボール箱を抱えるお兄ちゃんの姿を見た。 「お兄ちゃん、その段ボール箱、何が入ってるの?」 「本だよ」 「本?何で?」 「何でって、…

第三章 ~恋心~ 小学生のような恋

翌日は、朝から雲一つない快晴だった。 約束の7時に近づき、家の外を見ると、もうお兄ちゃんの車は止まっていた。 「おはよう」 と挨拶し、由香は車に乗り込んだ。 「おはよう、寝坊しなかったな、偉い、偉い」 お兄ちゃんからは、そんな声が返ってきた。 「…

第三章 ~恋心~ 彼との約束

あのサークルの日の大雨は、梅雨入りのサインだったらしく、その後、毎日雨が続いていた。 由香は、講義中もぼんやりと外を見て、窓を伝う雨の滴を数える日々を過ごしていた。 そして前期の試験になり、しばらくサークルは休みになった。 会えないことが良い…